bag

誂え品

工芸の要素が全て詰まった茶箱
色んなクラフツマンに出会うことのできる楽しみ

服部今日子
オークションハウス PHILLIPS 日本代表 | 東京大学を卒業後、マッキンゼー&カンパニーに4年間勤務。その後、不動産投資ファンドに従事し、ヘッドハンターを経由し、2016年にフィリップス東京オフィスを立ち上げ、代表として率いる。趣味はアートコレクション。

「マルセル・デュシャンのトランクシリーズのような茶箱」

服部今日子氏はデュシャンのトランクを初めて目にしたとき、子供のころにおもちゃ箱をひっくり返したようなノスタルジックな感覚と、色んな思いを詰め込んだ印象が強く頭の中に残ったと話した。別の機会に、茶箱を用いた茶会に参加し、茶箱には自分の好きなものを詰めることができると知って、そのときからデュシャンのトランクのイメージと重なっていたという。

無理難題を言って大丈夫だろうかと思いながらも、たくさんの職人に出会うことができる期待を抱いて、京都の工房を共に巡った。


若い職人とのものづくり

工芸の世界では、60代の方でもまだ若手と言われる場合もある。一生をかけて技を極める伝統工芸らしい考え方でもあるし、実際に担い手の高齢化が進み、若い世代が少ないという事情もある。一方、服部氏が活躍する現代美術の世界では、20代・30代のアーティストが、自分の名前で一世一代の作品を手掛けている。彼女はこのことを知って、培ってきた昔の技術を使いながら、できるだけ若い職人に茶箱のアイテムをつくってもらいたいと考えた。

「若くとも、ずっと一つの技を極め、それに対するプロフェッショナルなので、自分が要望する以上に、色々考えがあるのではないかと思いました。できればそこを引き出して、その方が今までやっていなかったことにチャレンジすることに私の茶箱を使っていただきたいという思いがありました。」

飯島勇介 | 漆芸
2010年北海道で自然体験・ものづくり指導員としてキャリアを開始。自身で手掛けた作品を道具として使ってもらいたいという 思いから伝統工芸に関心を持つ。2014年 退職し、京都伝統 工芸大学校蒔絵科に入学。2016年 より三代西村圭功に弟子入り。2021年独立。

suosikki 竹村雪子 | 漆芸
兵庫県出身。2012年京都市立芸術大学大学院美術研究科 漆工専攻修了。「多くの方に漆器を使ってほしい」という思いで、学友と漆芸ユニットを結成し活動する。色漆を積極的に使用し、現代の生活に取り入れやすい漆器を製作している。

この想いを受けて、修行先の工房から独立したばかりの上塗師・飯島勇介氏には、自身の名で初めて手掛けることになる棗を、大学時代の同級生でユニットを組み食器製作を中心に活動する漆芸家・suosikki竹村雪子氏には、彼女としては初めて手掛ける茶椀(替茶碗)を依頼することにした。ただ若いから、ということだけではない。飯島氏は、師匠である西村圭功氏が真塗を極めてきた姿を見てきて、自分が独立する折には朱溜塗を自分のシンボルにしたいという思いがあった。非常に華やかな塗りの表現で、きっと服部氏の好みに合うだろうと思った。また竹村氏の作風は、豊かな色彩感覚を生かし、顔料を混ぜてつくる色漆でパステル色やビビットな色など、元々飴色がベースである漆では難しいとされる色を自在に表現していることから、適任だと考えたためだ。

鮮やかな赤色を基調に、透明度の高い朱溜塗、澱みなき色漆、蛍光オレンジの糸などを取り入れ、とても華やかで上品な茶箱が完成した。
蛍光オレンジの糸で織られたコブシ唐花文様。その意匠を、南鐐(純銀)製の茶巾筒に透かし彫りで表現する。