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誂え品

毎日、目にするものを誂えたい。
職人のこだわりには、タイムレスな美しさがデザインされている。

TOMO KOIZUMI
ファッションデザイナー|2011年、大学在学中に自身のブランドを立ち上げる。2019年初となるファッションショーをニューヨークで開催。2019年毎日ファッション大賞選考委員特別賞受賞、BoF500選出。2020年LVMHプライズ優勝者の1人に選ばれる。2021年東京オリンピック開会式にて国歌斉唱の衣装を担当。2021年毎日ファッション大賞を受賞。

「ものを捨てることに罪悪感を覚えるようになった。」 

室内装飾品の中でも存在が大きく、部屋の雰囲気を左右する家具。ライフスタイルの中で、自分の好みが変わっても違和感のないデザインを求めるようになると、なかなかしっくりくるものが見つからないことに気が付いたと、チェストを誂えることにした背景を教えてくれた小泉智貴氏。 その時々、トレンドのものを手に入れ、飽きたら買い換える行為に罪悪感を覚えるようになったという彼は、自身が手掛けるファッションブランドでも、はなから大量生産には興味がなく、自分がつくりたいと思ったものをつくり、国内外の着たいと思ってくれる人に届けることを信念に活動する。

小泉氏にとって、家具を一からつくることは、初めての経験。何から決めて行けばいいのかと、不安も口にされていたが、好奇心の方が勝り、旅路に出る気分で誂え品を決めた。

「デザイン」と聞くと、見た目の華やかさやスタイリッシュさを想起するが、日々の実用性、修理をしながら長く使用することを前提としたつくり込みが、結果的にタイムレスなデザインとなる。人の好みは時間と共に、大なり小なり変化するが、いつでも、好ましいと感じることのできる「美しさの定義」が職人技には、内在する。

100年後もアンティーク家具として価値を損なわないような製法にこだわった。例えば、突板を、通常の家具製作に使われるものの3倍程度厚みのものを使用した。分厚い突板は、傷が付いた場合、その面を削って再塗装をすることが可能となる。

美しさの定義

棚板底面に設けたダボの窪みは、使用時には気に掛けないところだが、削り面に突板の下にある芯材が見えないように、突板と同じ無垢材を棚板の左右に練りつけて、その無垢材に窪みを設けた。
箱を外側と内側で、二重に組む。余計なビスを隠す他、脚から掛かる上向きの荷重に対して剛性を増すことが出来る。 左側の引き出しのユニットが歪みにくいことも利点だ。
引出しの中の素材はきめが細かく無塗装でも美しいメープル材を使用した。また内部の側板を面取りし、板の厚みをすっきり見せる意匠的な工夫を凝らす。
「心地よいものとはなにかと自分の思いに向き合い、時間とお金をかけて形にするお誂え。その意味を考えたとき、世界に一つしかないものを手にできる喜びが一番の価値だと思う。」 

ものを一からつくり上げる過程では、予想以上に決めなくてはならない仕様が多い。完成品を頭の中でイメージしながら、欲張りすぎてないか、バランスは悪くないかと迷い、その度に誂え人とチームで話し合い、ベストを考えていく。ものがたくさん溢れる現代において誂えの価値は、そういった試行錯誤の末にたどり着く、「期待以上の世界に一つ」を手にしたときの喜びに他ならない。