誂え品
「贅沢」の一言

安田成美
俳優 | 1966年生まれ。東京都出身。81年にCMでデビュー。83年、アニメ映画「風の谷のナウシカ」のイメージソングで歌手デビュー。 テレビドラマ「同・級・生」(89年)、「素顔のままで」(92年)などのテレビドラマ、映画、CM等に出演し、近年では、映画「Fukushima50」(20年)、「すばらしき世界」(21年)などに出演。
既成品を購入する際は、いちいち細かく考えずに想定の範囲内であれば、ぱっと買うことが多くないだろうか。そんな買い物に慣れていると、いざ誂えようと思っても、どこまで要望を言っていいのか加減が分からない。しかし、やり取りを重ねて、勘所が分かってくると、ようやく真剣に悩むことができる。
安田成美氏の最初の要望は、「籐編みの背の低い椅子」であった。
残念ながら、京都の技術に籐編みがない為、組紐で代用することを提案した。
後日、希望した籐編みが叶わず、組紐になったことについてどう思ったか尋ねてみると、安田氏は「面白いと思いました。組紐の椅子は見たことがないし、籐より繊細で上質になるような気がして、期待感を持ちました。」と仰ってくださり、一安心した。
一方で、彼女は和っぽくなりすぎるのも自宅のインテリアとして合わないと感じていたため、洋の雰囲気をどう表現するかに重点を置き、糸の色や座面の編み方を検討していった。

「白は大好きな色。
汚れやすさがかえって、緊張感をもたらし、凛とした気持ちになります。
糸が幾重にも組まれる特徴を生かして、白一色ではなく淡いアイボリーを取り入れたら素敵になりそうと思いました。
組んだ目がより際立つ、大人しく、品よく目立ってくれたら嬉しいです。」
座面に用いた組紐の種類は平紐だ。よく目にする組紐は対照的な色を3・4種類程度選んで組まれている印象だが、安田氏は敢えて白と淡いアイボリーで組むことを選ばれた。
職人を尊敬する
「一つのことに向き合い、淡々と、コツコツとつくり込んでいく。
自分だけではなく、歴史や伝統を背負って。
ひたすらに技術の鍛錬を重ねる姿に、ただただ感心します。
自分では到底できないような辛抱をされていて尊敬します。」

完成した腰掛け椅子は、家中を持ち歩き、使わないときはインテリアとして主張し過ぎず、そこに在る。日々の道具として長く愛用されていくだろう。金属の類いを一切使わない指物の製法を用いているため、木が錆の影響で朽ちることはない。3代先まで、木の狂いを時折り修理しながら使い続けていただけたら、嬉しく思う。

持ち手にもなる背もたれ部は骨盤を支え、長時間座る際にも姿勢が楽だ。

