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クラフツマン

技術を突き詰めたその先に

兵働智也氏は、指物のエキスパートとして軸を巻くための巻き芯や箱、茶碗などの茶道具を収納する桐箱、茶道指物を中心に手掛けている。
曰く、専門分野の経験を重ねるうちに出来ることが増えて仕事の質が上がるが、一方で単調な作業の繰り返しとなり、つくる楽しさを感じ難くなると。

箱と一口に言っても、木材や木目の出方によって雰囲気ががらっと変わる。木そのものの美しさを引き出すことも指物師の技量の一つだ。

お誂えでは、普段の仕様の決まった仕事から離れ、誂え人の要望に耳を傾ける。それは、相手によって至極具体的であたり、或いはイメージだけであったり。時に自分の技術で形にできるのか、と立ち止まることもあるが、色々と知恵を絞り、お互いに完成の方向が見えた際には喜びもひとしおだ。この瞬間に、自分は「つくること」が好きなんだと、ものづくりを生業にしようと志した事の気持ちが呼び起される。

神代木は、土中で数百年から数千年の年月を経て、独特の黒味みに変化した木のことをいう。
土の成分がゆっくりと木にしみ込んでいき木の成分と反応してできる風合いで、偶然がつくり出す産物だ。

工芸で用いられる素材や道具は、生活の中で身近にあるものを用いることが多々ある。自然から摂取したもので磨き上げた桐材は、表面が非常に平滑で石板のように輝く。

木の表面を磨くために(写真右奥から)トクサ、ムクノキの葉、イボタ蝋を用いる。記載の順に、サンドペーパーに例えると目が徐々に細かくなる。

桑の木に石灰水を含ませることで、木に含まれるタンニンが反応して茶褐色になる。

化学反応を活用して、使い込んだような木の風合いを引き出す。

指物で用いられる木釘は、卯木(うつぎ)だ。硬さと粘りがある低木で、日当たりの良い場所に自生する。

兵働知也|指物
1974年京都生まれ。21歳 染色の道へ入り、27歳 茶道指物と の出会いによりその道へ進む。2009年京北にて工房を構え 現在に至る。掛軸など文化財の保存箱や茶道具などを手掛ける。 2021年第1回JapanCraft21受賞。