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クラフツマン

伝統を守る気迫

京都の職人達が持つ独特の世界観がある。代々受け継がれてきた哲学に基づき、ものづくりに没頭する彼らは、そして、伝統を守り続けることへの危機感をもち、悩み、模索している。

置き目というわずかな下書きを頼りに、筆を器用み使いフリーハンドで描いていく。

漆は、人が快適に過ごすことのできる環境では硬化しない。そのため時間をかけた様々な表現ができるのだ。

朱漆で描いた上に、金の粉を「蒔く」。これぞ、蒔絵。

余分な金の粉を刷毛で払う。この後、牟呂(むろ)という、漆が固まる環境を整えた専用部屋で硬化させる。

蒔絵の下絵(下書き)は作家によって様々。高島氏は日本画の絵の具やアクリル絵の具などを用いて描く。下絵は完成イメージを想起させるものだが、最後はクラフツマンを信頼し委ねることになる。

漆の進化によって、ガラスに蒔絵をできるようになった。ガラスに蒔絵を施す面白さは、透明な素材を挟んで表裏の表現ができる点にある。この特性を生かし、前田育男氏の誂えにおいては、「ワインを注ぎたくなるような有機的なデザインをしてほしい」という要望を下に、蒔絵師・高島新氏はガラス越しに見える朱と表の金蒔絵で表現するメビウスの輪を描いた。動物のしなやかな筋肉とワインを注ぐ様からもインスピレーションを得ているという絵図は、蒔絵特有の立体感と色の変化が美しい逸品だ。


高島新 | 漆芸
1983年生まれ。2004年 石川県立輪島漆芸研修所特別専修課を卒業、蒔絵師高島忍に弟子入り。2011年 京もの認定工芸士認定。2019年 新蒔絵工房を開業。江戸後期の漆芸がもっとも華やかな時代の技術を探求し、蒔絵の最高峰の表現の再興に力を注いでいる。