フィーチャ
工芸と工業製品の中間

重松象平氏のテーマとして、工芸と工業製品の中間というバランスをどのように具現化という視点があった。現代のライフスタイルの中に、生きた工芸を提案するKiwakotoのフレームワーク自体からも発想を得たという。従来の工芸の発想では無機質かもしれないが、現代的に見てシンプルで汎用的であり、国際的にも違和感のないデザイン。しかし実は、細部を見るとこだわりがあり工芸的なアプローチでつくられているものとは何か。


金属工芸の職人は、アルミの一枚板から大きな入れ物を手掛けた。直径280mm 高さ300mmという、普段、製作する茶道具と比較すると相当に大きなサイズだ。身蓋を重ねた際、段差がなくフラットに仕上げる為に、身の方はアルミの厚み一枚分を内側にひかえてつくる。身蓋のかみ合わせの狂いを修正しながら、肌を荒らして質感をつくり、また狂いを修正していく。金属を叩く甲高い音と共に、職人の真剣な眼に引き込まれていくようだ。


形状として無機質な、寸法通りの硝子器を製作するには、金型に職人が硝子の種を吹き込む「型吹き硝子」の製法が適する。江戸時代から受け継がれる「江戸硝子」の技術の一つで、18世紀序盤に眼鏡等の製造技術として誕生し、東京の地場産業として発展した。1,400℃程で溶かされた硝子を鉄の棹で巻き取り、金型の中で息を吹き込み一機に成形する。このとき硝子と金型の間に、瞬間的に水蒸気の膜ができるため硝子の表面が滑らかになる。一瞬のリズムの狂いが製品に影響する。4-5人による分業で、一本の棹を操り、形をつくっていく。

漆器のベースになる木地。木のブロックをくり抜き削り出す方法と、曲げた側面に底を付ける方法がある。木のブロックから削り出す方法は、お椀程度の大きさであれば、材料の木を入手しやすいが、今回のような直径170–220mm、高さ60–90mmとなると、材料の入手に時間を要する懸念があった。上塗師・西村圭功氏と相談の上、京都では用いることは少ないが、材料による制約が少なく、円筒のエッジがより際立つと想定された、 曲げの技法を試してみることにした。若い指物師にとっても初めての曲げの仕事となったが、思いの外、いい仕上がりになった。
誂え人のこだわりや感性と、作り手の技がぶつかり合うとき、新たな可能性が生まれる。テクノロジーの恩恵によって、カスタマイズへのハードルは下がった。オンライン上で、数千·数万種類の中から組み合せを選び、ビジュアルで即座に確認して、注文することができる。一方、誂えは、用意された選択肢の中から選ぶのではなく、職人と話し合いながら少しずつ進めていく。完成品を事前にビジュアルで確認することは難しく、様々な情報から頭の中で予測するしかない。これらが、二極化していくのではなく、境目がより曖昧になることで、双方のものづくりが大きく変わる予感を覚えた。