中嶋龍司さんは、祖父であり師匠である喜代一さんの職人の背中に憧れ、19歳の時に弟子入りしました。象嵌の知名度の低さを嘆き「一度体験したことは絶対に忘れない。だから若い人に体験してほしい」と言っていた祖父の意思を受け継ぎ、誰でも象嵌作りを体験できる機会を提供し、自ら実演も行います。地金に布目を刻む規則的で小気味いい音。受け継いできた技術や思いに、龍司さん自身の個性を加えた新しい商品に日々挑戦されています。
紀元前に現シリア・アラブ共和国の首都ダマスカスで誕生し、飛鳥時代に仏教と共に日本に伝来しました。当時はとても高価なものとして、武士や貴族が宗教的な道具や刀の鍔の装飾として一部の階層に広がっていきます。安土桃山時代には、京都の刀鍛冶 埋忠家と甲冑師 正阿弥家の仕事により、それまでにはなかった鍔への象嵌技術による絵画的な表現が注目され、両家で技術を習得した職人が各地の大名に仕え、京象嵌の技術が全国に広まっていったとされます。その後、簪、煙管、鏡、文箱など日常の道具の装飾として一般にも広まっていきました。人の手でつくられているのが信じられないほどの細かさ、奥ゆかしい美しさが魅力です。
地金の表面にタガネを使って縦・横・斜めの細かな刻みを入れ、剣山状の土台をつくります。最も大切な工程で、1㎜に約7~8ケの刻みを入れます。
模様となる平金を型使ってパーツに抜いていきます。型は、創業当時から蓄積したものが数千点あり組み合わせによってあらゆる絵柄が表現できるそうです。
純金や純銀の平金を小さな金槌で打ち込んで模様を描きます。下絵は描きません。
イメージ通りの模様を打ち込むと、平金がきちんと布目に嵌まる様に『鹿角ハンマー』で丁寧に打ち込みます。こうすることで金銀が伸びず、且つ光沢が出ます。
古くからある象嵌では地金に鉄を使用することが一般的で、この後、酸化鉄で全体を腐食後、錆出し・錆止め、漆を焼き付けて全体を漆黒で覆い、模様部分の金銀を研ぎだしていきます。今回のサングラスは眼鏡での実績があり錆びにくい地金としてステンレスを採用し、布目の凹凸で印影を表現し模様を引き立てています。
先代から受け継いできた道具のほとんどが、職人自らによる手製です。