親子三代にわたり漆の仕事に携わっている西村さん。二代目までは上塗りを専門的に行う工房でしたが、三代西村圭功は全工程を取得し、作家活動も精力的に展開。アジアにしかない漆の魅力を、作品を通じて世界へ発信されています。
漆器の仕事は分業制で、工程ごとに職人が個々の技術を研ぎ澄ましていくことで成り立ってきました。大きく分けると、ベースを作る木地師、その上から漆を塗る塗師、加飾を施す蒔絵師。塗師も、下塗り師、上塗り師、蝋色師など細分化されています。加飾のない塗りの器でも、磨き仕上げと塗り仕上げでは、シャープな印象と柔らかい上品な印象となるように、職人の技一つで様々な表現ができるのが漆の特徴の一つです。
漆を室(むろ)*で乾かす際、定期的に向きを変える「返し」と言われる作業を繰り返し行います。そうすることで漆が垂れることを防ぎ、きれいに乾きます。
装飾のない塗りの仕上げにも多くの表情があります。漆は刷毛で塗るのが基本。化学塗料の吹付塗装では表現出来ない、うっすら刷毛の風合いが感じられる柔らかな塗り上がりが魅力の一つです。
一閑中次棗でも用いられた仕上げ技法「炭研ぎ」は、木地に何層もの漆を施し、表面を炭で研ぎ上げることでマットな質感を出します。
分業による専門技術の高度化で発展した漆芸。しかし、産業の衰退とともに工程のピースを失うことも少なくありません。西村さんは全工程を習得されたノウハウを活かし、木地づくりを工房でできるように職人の育成を取り組まれています。