一度、作品づくりを始めると時間が経つのを忘れ、没頭される村田さん。漆はどこまでも終わりがなく「ついつい手を入れたくなる」と。宮廷や武将の愛でる日用品に施され、「漆芸」というアートと実用の中間的カテゴリーを確立した工芸の中でも特異な存在です。先人たちが培ってきた木の樹液である漆、貝、卵殻などの天然素材を駆使した技法を習得した上で、現代だからこそ表現できる独自の美しさを探求されています。
縄文時代前期から存在していたとも云われる漆による装飾。最古の漆を施した装飾品は、北海道の遺跡から9000年前のものが見つかっています。これは中国の遺跡で出土されたものより2000年強以前のものであることから、漆芸は海外から持ち込まれたものではなく、日本独自で発展してきたものではないか、とも言われています。(漆芸の起源については諸説あり、遣唐使によって奈良時代に漆技が伝わったという説も。)
京都では、平安時代から宮廷内での漆器の使用が日常化し、朝廷直轄の漆工が始まりました。他の工芸と同様、茶の湯の文化と共に発展、繊細で優美な表現技法が代々、漆芸家の手によって編み出されています。
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漆芸の表現技法のひとつ、蒔絵のデザインスケッチは鉛筆書きが大半です。金銀や螺鈿など使用する材料を念頭にイメージを膨らませます。後ろに並ぶカラフルなドライバーヘッドはすでに漆の上塗りが施されています。
螺鈿(らでん)つまり貝による表現です。アワビや夜光貝、白蝶貝の貝がらの輝いた部分を0.1ミリ以下に削った素材を漆の塗膜が乾く前に一つずつ載せて柄を描いていきます。
貝と貝の隙間を埋めるように漆を塗り重ね、表面を漆で覆います。
塗り重ねた漆を炭で擦るようにして貝を研ぎ出し、表面をフラットに整えていきます。季節にもよりますが、漆が乾くまで2~3週間、一定湿度で寝かせ、また同じ工程を繰り返し、地と装飾の貝との段差を埋めていきます。