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VOICE OF CRAFTSMANSHIP

MAGAZINE

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虜になる瞬間 - 香りのいろいろ -

日々の生活を彩るさまざまなアイテム。その道のプロだからこそお伝えできる、ならではの楽しみ方をお届けします。

香りを嗜む

文:田中三貴 写真提供:松栄堂 松寿文庫

田中三貴
アロマテラピスト・調香師として1998年から京都で活躍。香りで「ことば」を表現するという独自の方法を用いる。花柳界を中心に歌舞伎・芸能界などの方々に支持され、オリジナルのフレグランスを提供。

香炉

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香りというものが日常にありふれたあたりまえのものとして存在するいま、「香りを嗜む」という表現をすることはほとんどない。 現代に生きる私たちは1週間を普通に暮らすだけで、およそ2000種類もの香りを嗅いでいるといわれている。日本人は昔から季節の移り変わりを敏感に感じ、旬の食べ物や四季折々の草花の香りを好むというところから、香りを愛する国民性と思われがちだが、歴史的には海外から入ってくる強い香りの受容は避ける傾向にあり、ほのかで爽やかな芳香を多用する。多くの香りに出会うわりには嗜むような個性豊かで豊満な香りとの触れ合いには縁遠く、どちらかといえばニオイを消すための香りに出会う毎日なのだ。
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10万人ともいわれる民がいた平安の都、貴族階級はそのうち1千人ほどであった。10万もの様々な生活臭から自分たちの生活空間を隔絶するために、重要な役割を果たしたのが「かおり」であった。 平安貴族は主に空間と、身に着ける衣に香りをたきしめ、外界からの悪臭や自身の体臭を芳香でごまかすことで高貴な香りの世界を確立していったのだ。芳香剤や消臭スプレーを多用する現代の私たちにも通ずるような香りの活用ではあるが、ひとつだけはっきりと異なる側面がある。それは、彼らにとって自分の放つ「かおり」が財力や教養、センスの良さを表す大切なツールでもあったということ。日が暮れると暗くなる宮中では放たれる「かおり」がその人を表すサインとなり、貴族は各々で独自に香料を調合してオリジナルの「かおり」を楽しんでいた。そんな背景もあり、 香料合わせの知識は彼らの教養のひとつして重要視され、優れたものは後世に引き継がれ洗練されたかおりとして現在も残されている。贅沢な「かおり」の世界はやがて各人のかおりの優劣を競う優雅な遊びを生みだし、高尚な趣味や上流階級の嗜みとして親しまれるようになったのだ。
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悠久の時を隔てた都に生きた貴族のように、洗練されたかおりを嗜むライフスタルを受け継ぐのも悪くない。香りが溢れ、「かおり」が特別な存在となったいまこそ、お洒落でラグジュアリーな遊びのひとつとしてあなただけの空間をお気に入りの「かおり」で カスタマイズしてはいかがだろうか。

 

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