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古都のライフスタイル

現代の生活にも取り入れたい、平安時代の上質なライフスタイル。史実を基にお伝えします。 文:平安朝文学研究者・山本淳子

極上を超えた上質を求める精神

文:山本淳子 イラスト:黒岩多貴子

山本淳子
平安朝文学研究者 京都学園大学人間文化学部教授
1960年、金沢市生まれ。平安文学研究者。京都大学文学部卒業。石川県立金沢辰巳丘高校教諭などを経て、99年、京都大学大学院人間・環境学研究科修了、博士号取得(人間・環境学)。現在、京都学園大学人間文化学部歴史民俗・日本語日本文化学科教授。2007年、『源氏物語の時代』(朝日選書)で第29回サントリー学芸賞受賞。

きわことが生み出される瞬間

現代語でも、とことんまで突き詰めることを「極める」と言い、究極のあり方を「極み」と言う。平安の貴族たちも、栄華を極め、贅の極みを楽しんだ。だが彼らには、その「極み」を「異」にした、つまり極上をさらに突き抜けた世界が見えていた。それを指すのが「きわこと」である。極みを超えた上質さ。比べもののない別格であることを、彼らはこう呼んで褒め、また憧れたのである。

「きわこと」は『源氏物語』にも登場する。主人公光源氏が政界の頂点に立ち、娘を天皇家に嫁がせるという、この物語で最も幸福感に満ちた場面でのことだ。光源氏は娘に持たせる道具を整えるが、その中には冊子本など仮名書きの書物があった。もちろんすべて手書きである。印刷技術は平安時代にもあったが、現在の絵画と同様で、一点ものにこそ価値があったのだ。その時、彼が思い出すのが、かつて六条御息所が何気なく書いた文字の見事さである。「あれは『きわこと』、別格だった」と彼は言う。六条御息所は、光源氏の女君の一人として知られるが、もとは皇太子妃である。彼女は極上の生活を送る都でも有数の貴婦人であった。だがそれだけではなく、自らが別格の書をものする、教養人であった。それを光源氏に懐かしく思い出させるところに、『源氏物語』の美意識がある。

京都は平安の昔から、こうした価値観を受け継いできた。そして今も、「きわこと」はこの町に息づいている。ならば今、身のまわりに「きわこと」を置き、それと共に日常を送りたい。極みを超える精神性を、いつもさりげなく感じていたい。光源氏がそうしたように。

 

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