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コトを成すために、和(ワ)をもってキワコトを生み出す。きわこと(際殊)は、古語で『格別であるさま』という意味を持ちます。Kiwakotoは、代々受け継がれてきた文化を未来へつなげるため、新たな価値を創造します。
岡修三(松村株式会社繊維原料部部長)×梶原加奈子(テキスタイルデザイナー)×吉村優(Kiwakotoディレクター)
今回Kiwakotoが、職人のこだわりの詰まったテキスタイル商品をリリースするにあたり、シルク起毛ブランケットメーカーの瀧芳さん、シルクカシミアストールの武藤さんにお話を伺いました。今回、私たちは世界のテキスタイルを見てこられたデザイナー梶原加奈子氏をプロジェクトに迎え、ラグジュアリーなライフスタイルの中に共に置きたいテキスタイルとして「シルク」という素材に着目し、商品に取り入れることにしました。
そして偶然にも、今回ご依頼している瀧芳さん・武藤さんが糸を仕入れられているのが、京都で創業155年のシルク専門商社・松村さんでした。
いいものをつくるには原料から。日本有数のテキスタイルづくりを支える同社の繊維原料部部長にもお話を伺いました。
吉村:
梶原さん、今回の商品開発におけるキーワードは「シルク」だと思いますが、その魅力やグローバル市場における価値を教えてください。
梶原:
和装が中心の時代には、日常生活の中でシルクは身近に使われていました。しかし、洋装が発展した現在においては、高価で手入れが難しいイメージが先行し、多く使われにくくなりました。ですが近年、天然繊維であるシルクのアミノ酸配合は人間の皮膚に一番近いことが知られるようになり、ラグジュアリー素材という側面だけではなく、体に心地良く負担を掛けない素材として、認知度が上がってきています。日本では加工技術を生かし、自宅で洗うことのできるシルク開発されていることもあり、海外のトップメゾンからは、上質で細番手のシルクの糸以外にも、日本の機能性シルクの開発に評価が集まっています。
その他、シルクと他の素材を複合させたものや、シルクライクの合繊素材でも日本の技術は非常に評価が高いと思います。
岡:
近年では、肌に優しいという機能的な魅力から靴下や肌着などアパレル業界で上質なシルクを求めるお客様が増えてきたと実感しています。
吉村:
平成17年の絹糸・絹織物の自由化に伴い、大手総合商社は、相次ぎシルクから撤退されました。そんな中、御社が生き残ったのはなぜなんでしょうか。
岡:
絹糸・絹織物の自由化以前は、シルクは言わば「利権ビジネス」でした。当時は大手商社のほとんどがシルクを扱う商売をしていましたが、自由取引になって以来、徐々に撤退されていきました。弊社は、京都に地盤をもち西陣エリアを中心に、営業マンが日々、直接お客様のところに伺っていたことが強みであり和装の発展と共に成長してきた会社です。お客様のご要望に細かく応え関係性を築いていたため、自由化の後も大きな影響は受けずに、存続することができました。
梶原:
直近はインドシルクも業界としては注目されています。まだまだ生産コントロールが難しい側面もあり、これからの発展かもしれませんが。
岡:
他にもベトナムでは日系人の方が日本の昔の技術を転用し、蚕を育てるところから撚糸まで一貫体制の拠点を展開されている工場もあります。技術と共に、日本の強みである丁寧な生産体制を確立されていて、これから益々伸びていくだろうと考えています。
そういった生産者さんから、すばらしい素材を仕入れさせていただき、各ものづくりの現場に合わせて適切な材料をつくり届けることができます。
梶原:
日本人の繊細で丁寧な物作りの感性が、究極の技術を育て、グローバルから求められる素材や商品を生産できるのだろうと思います。素晴らしい物作りの職人さんたちと交流できる事に心から感謝し、バトンを受け継ぐように素材にデザインを合わせていきたいと思います。そして、日本のものづくりから生まれるものを多くの方に触れて頂きたいと思います。
吉村:
日本の脈々と続く技術やものづくりの精神が、国内外で受け継がれていくことで、新たな市場価値を創造していることを、シルク素材を通じて学びました。この十数年、和装業界は縮小していますが、ものづくりの精神は活きていて、そこで培われた技術が形を変え、未来に残っていく。そういったポジティブな連鎖をつくり出す取り組みを私たちも生み出していきたいです。