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VOICE OF CRAFTSMANSHIP

MAGAZINE

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パートナー対談

作り手の思い・考え方こそ未来へ残したい!Kiwakotoメンバーと開発パートナーとの対談です。

創造の心

薗部 正典(薗部染工 代表作家)×吉村優(Kiwakotoディレクター)  
  

薗部 正典
薗部染工 代表作家
1970年に独立し、墨流し染めを友禅染めの技法として確立。アパレル素材やレザーに展開している。2017年 黄綬褒章授与。

薗部染工の薗部氏との対談風景

今回対談させていただく、薗部正典さんは、墨流し染めを京友禅の技法として確立させた業界の重鎮。80歳になる今も、お弟子さん達と共に現場に立ち、墨流しによる新たな表現に挑戦し続けています。和装にとどまらず、アパレル、ファッションに用いられる様々な素材に取り組み、手仕事の可能性を広げています。日本の伝統の中にある美意識の継承と時代に合わせた革新を体現している薗部さん。人生の大先輩として、その姿勢をリスペクトします。
  
 

吉村:
いつも、ありがとうございます。革や綿、シルクなど、いろいろと染めていただいて、墨流しを表現できる素材の幅広さに驚いています。こんなにいろんな素材に展開しているのは狙っていたところですか。

薗部:
いや、狙ったということではないのですが、必然的に広がりましたね。常に、「人に真似されないようなものをつくろう」ということを考えてきて、やってるうちにね。真似されてつくられたものが良いものだったら、自分ではもう止めて、次のものに挑戦するんです。その繰り返しですね。

吉村:
止めて次のもの、ってなかなかできそうで腰が重いですよね。

薗部:
例えば、和装業界ではインクジェットの技術が発展し、産業革命のごとく、多くの職人の仕事を奪っているとずいぶん昔から言われていますが、私はそうは思いません。
インクジェットは、手仕事では全く歯が立たない程、たくさん作ることができて出来栄えも、見方によっては、いい。中には、手仕事かインクジェットかわからないようなものまであります。ただ、職人は、それに嘆いていてはいけない。インクジェットという技術は受け入れ、じゃあ、職人にしかできないものは何か、あるいは最新技術と職人技を組み合わせてなにができるかという発想でいかなくてはいけないと思います。

吉村:
墨流しは、インクジェットではできないものの一つ、ですか?

薗部:
いや、私どもの墨流しだって、柄をデータに読み込んでしまえば、インクジェットでも同じ柄はできてしまいます。しかし、墨流しの価値は「一点ずつ違う、二度と同じものはできない」ということで、そこに魅力を感じていただいている方がいらっしゃる。昔、墨流しでTシャツを作りたいというところがあって、3,000メートルは発注するので、あとはインクジェットでやらせてほしいと言われました。勿論、断りましたが。私が思う、墨流しの本来の価値ではないですからね。

薗部染工の薗部氏の作業風景

吉村:
新しいことに挑戦する、秘訣みたいなものはありますか。

薗部:
新しいことをやるには、なかなか一人では進みませんね。人との出会いがすごく大切です。

吉村:
墨流しにも出会いがありましたか?

薗部:
ありがたい出会いがたくさんありました。なかでも、すごく大きな影響を与えてくださった方が2人います。革素材に挑戦するきっかけになったのが、革の問屋さんが飛び込みでうちの工房にいらっしゃって、当時は、絹や綿しか染めていなかったのですが、一瞬で生地が柄を吸い取る様子にえらく感動されて、取引先の靴メーカーに提案したいと熱心におっしゃられるので、やってみることにしました。試しに一回染めてみたら、綺麗に染まってね。ただ、本番の大きな一枚革で染めようとしたら、不具合がでたり、いろいろ試行錯誤を一緒にしていただきました。

吉村:
もう1人は?

薗部:
染料メーカーの方です。私の修行時代は、マドレー染めといって、硬い糊の上で柄を作っていたのですが、そうすると道具が糊でベトベトになって、洗うのがとても大変だったんですね。早く仕事を終わらせたくて、こんな糊を使わずにできないものか、と考えたのが、今のように、ほとんど水のような水面の上で絵柄を書くやり方でした。染料メーカーさんにご相談して、水の上でも溶けない、色同士が混ざらない染料を一生懸命開発していただきました。仕事が終わる時間も早くなりましたしね、とても感謝しています。

吉村:
薗部さんの挑戦力が、人を引き寄せているような感じがしますね。お弟子さんたちも、いつも熱心に作業をされていて、私たちのいろんな要望にもめげずにやっていただいてありがたいです。

薗部:
うちの若い子たちには、いつも、仕事は一人でできないから感謝せなあかん、と言ってます。社訓にも「創造の心、挑戦、感謝」と掲げ、毎朝、みんなで唱えています。

吉村:
修行時代、美しさを表現するための技術を学ぶ一つの方法として、花を描くそうですね。

薗部:
そうなんです。手書きの職人は、美しさをバランスで表現します。花が大中小とあってどういう風に描くとより綺麗なのかということを学びます。

吉村:
あ、生け花と近いですか?

薗部:
花の世界では「天地人」と言うそうです。天が最も高い位置、地は最も低い位置、人はその中間の位置。私どもも、絶えずバランスを考えて、配色や柄向きなどを読んでいく。マルばっかりではおもしろくない。サンカクやシカクがあって変化があって面白くなるという考え方です。よく、師匠には、「同じ柄がつまっていると味がない」といわれましたよ。
墨流しでも、一見、均一になるように柄を描きますが、全体の見え方のバランスを考えて細かく変化をつけるように手を入れていきます。

吉村:
あの素早い作業の中で、バランスを見ながら描いていらっしゃったんですね。私自身、水面で絵柄がどんどん変化していく様子がすごく魅力的で、いろんな方にその工程をみていただきたいと思っています。平安貴族が、川に墨を流してその変化を楽しんでいたことが起源とお聞きして、ゆったりとした時間の流れを楽しむ様を感じました。それが今の時代に、美しい表現をする技術として受け継がれている。薗部さんたち職人さんのお陰ですね。

薗部:
もう一旗揚げようと、思ってやってますよ。若い方がこうして熱心にうちに来てくれることを思うと、もっとがんばんなきゃってね。共に、いいもんを作りましょう!

  

  

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