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作り手の思い・考え方こそ未来へ残したい!Kiwakotoメンバーと開発パートナーとの対談です。
梶原加奈子(テキスタイルデザイナー)×吉村優(Kiwakotoディレクター)
ここ数年、日本の各織物工房が世界の展示会に出展し、トップメゾン相手にプレゼンテーションをしているのはご存知でしょうか。メイドインジャパンでないとこだわりの強いメゾンは採用しない、とも言われるほど、日本のテキスタイルは世界のデザイナーたちから支持を得ています。Kiwakotoのテキスタイル関連の商品開発に携わる梶原デザイナーは、自身のライフワークとして、日本のテキスタイルをセレクトし、海外メゾンに提案する活動を続けていらっしゃいます。
今回、連載4回でお届けする『パートナー対談~ジャパンメイド・テキスタイル~』
テキスタイルデザイナー梶原加奈子氏とKiwakotoディレクター吉村が、日本を代表する技術をもつ工房のお話を伺い、こだわりを貫き成長していったストーリーを掘り下げます。
吉村:
テキスタイルに関するグローバルイベントは年間どれくらいありますか。
梶原:
ファッションマーケットに関しては、パリ、ミラノ、NY、上海などで6ヶ月に1回の展示会が開催されています。インテリアマーケットに関しては、ドイツ、イタリア、NY、トルコ、上海などで1年に1回の展示会が開催されています。
吉村:
世界、特にトップメゾンは、テキスタイルになにを求めているのでしょうか?
梶原:
トップメゾンが表現したい方向性を形にするためのテキスタイルデザインを求めています。それぞれのメゾンの世界観を理解した上での提案が大事ですが、それだけではなく、一歩先の社会の変化を捉えた新しいコンセプト、デザインも必要としています。その他、グローバル視点で常に刺激を求めています。オリジナリティがあるテキスタイルの最新情報や技術革新について敏感だと思います。
吉村:
ジャパンメイドの評価はどんなところにあるのでしょうか。なにに価値を感じるのでしょう。
梶原:
まず第一に、技術力です。世界でトップレベルと認められる技術が日本にあります。日本の和装文化や伝統工芸から発展した日本にしか存在しない技術や、独自性がある糸、織、編、加工までの工程の組み合わせ、繊細で高品質な仕上がりを追求する開発力に高評価が集まっています。テキスタイルの限界を追求し、世界一薄い生地を作れるのも日本の工場です。また、海外からは特に複雑な風合いを表現できる後加工の技術が注目されています。
第二に、精神性です。特に侘び寂びの文化や茶道、華道、剣道などの伝統から伝わる日本人の質素で控えめで芯が強い精神に憧れを感じられているように思います。その中でも特に、藍染や刺し子といった昔ながらの野良着の質感や色に人気が続いています。
第三に、生産管理能力です。日本は誠実で実直な対応ができる可能性が高く、ビジネスの上での信頼性が評価されています。Made in Japanは高品質であるという高付加価値のイメージを持っていると思います。
吉村:
梶原さん自身では、各産地のテキスタイルをセレクトし、トップメゾンに提案する活動を続けていますが、取り組もうと思われたきっかけはどういったところにありますか?
梶原:
イギリスに留学していた時に経験した日本への想い、テキスタイル産業への想いが大きく影響しています。
海外で表現の仕事をしていく中で、自分が育った環境、民族、文化、思想を常に問われました。その過程で日本の歴史や文化の独自性、精神性を改めて見つめ直し、伝統の染織には色や形に込められたメッセージ性や風習に沿った決まりや意味がある事などを改めて学びました。
海外では日本文化に興味を持っている人が多いことにも、海外に身を置いてから気がつきました。
ですが、現状の日本の伝統は、戦後の洋風スタイルの成長拡大や価格帯が高価である事も含めて時代の変化に対応できていない問題があり、容易に使いこなせないものになってきていると思います。
その上、伝統工芸の産業や和装が低迷していく中で廃業や職人の減少も問題になっています。
また、伝統工芸の技術継承以外にも、日本のテキスタイル産業は2000年以降、中国などアジアの生産地の急成長の影響で生産量が減少していく流れが強まっています。日本でしか出来ないオンリーワンの開発で生き残りを掛けている産業の戦いが続いていきます。
今後の未来はよりデジタル化し、過去から離れていく可能性がある中で、私たちの世代が伝統を未来に繋いでいく事を意識して努力していくべきだという想いが強く芽生え、海外から帰国して日本の文化やテキスタイル産業継続を目指せるような活動をしたいと思いました。
2006年に帰国してから12年間、産地の現場と向き合い、デザインで未来に向けた提案をリードし、日本の物作りを伝えていく活動を積み重ねてきましたが、道のりは簡単ではないと未だに思います。
多くの中小企業メーカーさんは開発費や経費や営業費用が円滑にある状況ではないため、長期改革プランは立てにくく、絞り込んだ開発と短期で出す結果が必要です。デザイン開発の一方で販路開拓への動きが同時に必要であり、何度も難しい壁を感じましたが、ゴールはないので継続する事を意識して乗り越えていきたいと思っています。
また日本の産地では受注発注の生産量が減ってきており、工場の自社開発と自社販売力が必要になる転換期に、多くの企業は、技術開発が得意だけどデザインには消極的という傾向があります。売れるか確かではないデザインを自社で生み出していく事にストレスがあるようでした。そこで、デザイナーとしての立場は抑え、工場の目線になりマーケティングを生かした色や柄の傾向をわかりやすく説明する事や、生産効率を理解した上での開発を話し合うようにして、工場の方々が不安にならない進め方を意識しています。
その他、工場の高齢化の問題は大きくあり、若者たちが入ってきても長続きしない場面も多く見てきました。
人が少なく安定しない中で、未来の種を植えるような改革の仕事を育てていく事は工場の現場では負担になるため苦しいと思いますが、時代が変化していく中で、若い方々の最初の入口をどう作り、未来を共に考える体制作りがどの産地でも必要だと思います。
吉村:
テキスタイルは、装置産業だとばかり思っていました。機械があり、原料があればできるもの。しかし、さまざまな産地に伺うと、装置があればだれでもできる、ということではないですね。
梶原:
機械があり原料があれば出来る大量生産型の仕事は、他の国の役割になってきているのかもしれません。
楽に簡単にありきたりな事をやっていては、グローバル価格競争に負けてしまいます。
日本のテキスタイル産業を継続させていくには、挑戦する心、考える力が必要です。
機械も糸作りも素材作りも、それぞれのメーカーさんが独自に考えた工夫をしています。手間暇がかかる工程と向き合い可能にしていくには、強い気持ち、忍耐力を持った人が必要です。このような人を育てる事も物作りの産業を残すためには重要だと思います。
吉村:
京都のテキスタイルはグローバルでどう評価されていますか。いくつか、ブランド化している工房さんもあります。
梶原:
全体の生産量は縮小したとはいえ、日本の和文化は残っており、特に京都はまだまだ和装の占めるウェイトが大きいと思います。
ただ、海外のファッションモードに対しての提案は、グローバルに対応する体制が十分ではない段階だと思います。例えば、和装を主として開発してきた中で小幅の織機を使っている点が洋装の服作りの生地幅の規格と合わず、海外に販売しにくい部分があります。
一方で、毎年必ず京都にリサーチに来るトップメゾンもあり、京都のテキスタイルの可能性は世界から期待されています。
西陣織では、京都の細尾さんがW幅での対応を可能にしており、グローバル化が早かったと思います。
世界との接点が増えることで、情報も入りやすくなり、デザイン性も世界が評価する日本の美を捉えていると思います。
また久山染工さんも手捺染の技術に独特の加工アイデアを加え開発を続けているため、トップメゾンからの評価が集まっています。ここにしかないテキスタイルで且つ、服地やインテリア素材としても使いやすい規格であると認識されれば、グローバルで評価を受けやすいと思います。
吉村:
海外にチャンスがあると気づき、行動力のある各工房の努力で培ってきた日本のテキスタイルの価値。これを未来につなぐためには今、何が必要だと思いますか。
梶原:
関わる方々の想いで未来に繋ぐ努力をしていけるかが根幹にあると思いますが、想いだけではなく、現実的に実行できるかどうかが重要だと思います。
第一に、グローバルマーケットとターゲットブランドの求める方向性を学ぶ事が必要だと思います。時代が求める色、柄、風合いを知り、トップメゾンが欲しいと思うデザイン性を提案していけるかが勝負になると思います。
第二に、タイミング良く見せて、スピーディーに生産できるかどうかだと思います。プレゼンテーションの期間があるので、そこで紹介できるかがとても重要な事です。またオーダーを受けてからグローバル基準で的確に生産できるかどうかです。素早い展開のファッションでは、時間が勝負です。短納期は常に求められます。
第三に、テキスタイル販売だけではなく製品販売をするか考える事も必要です。機械設備として、どうしても小幅を生かした生産しか出来ない工場や手作業もあり生産納期がかかる技法のテキスタイルを素早く展開するテキスタイル販売で展開していく事に限界があるかもしれません。その中で、オリジナル技術を生かした製品をグローバルに販売するラインを開拓する事も一つの手段だと思います。
次回は、大阪・泉大津でつくられる最高峰のシルク起毛の魅力です。