京都のクラフツマンに依頼する上質な「お誂え」の逸品展示・オーダー会 開催報告
2月24日から28日、『お客様一人ひとりの理想のアイテム』を誂るイベントを開催いたしました。
展示では文化的事業継承の一翼を担う本取り組みに共感された7名の著名⼈、文化人の方々そしてラグジュアリーブランドからお誂えのテーマをいただきKiwakotoとクラフツマンが半年以上かけて製作した逸品を、ご来場者の方々に御覧いただきました。
オーダー会では、伝統工芸の技法による誂えに関心をもたれたお客様が、「世界にひとつ」の逸品製作に、熱心にアイディアをお聞かせくださいました。これから数か月の時を経て製作する皆様のご所望の逸品が待ち遠しい限りです。
会場となった誉田屋源兵衛は、呉服商が軒を連ねる京都・室町に200年以上続く帯の老舗です。訪れた方はみな、風情漂う室町の街並み散策もお楽しみになられていました。

文化朝活第一回
初めに。文化朝活は予め答えがあるものではなく、Kiwakotoスタッフが日々活動する中で「興味深い!伝えたい!」と感じたことを、セッションにご参加いただく皆さまと共に学び・議論し、各々が何等か「きっかけ」を持ち帰っていただく活動です。そのため、これからレポートする内容は会場にいた一筆者の一つの捉え方としてお読みいただけましたら幸いです。
文化朝活第一回
テーマ:
日本のクルマ文化の起源を探求する
概要:
旧車の王様とも言われるトヨタ2000GTの実車をKiwakoto本店内に展示。モータージャーナリスト西川淳さんをプレゼンターに迎え、2000GTをじっくり見ながら、ここから始まる日本のクルマ文化について語らうイベントです。
プレゼンター紹介:
西川淳 モータージャーナリスト
1965年 奈良県生まれ。京都大学工学部卒業。リクルート・カーセンサー副編集長を経て、99年に独立し編集プロダクションを設立。フリーランスとして雑誌、新聞、ネットメディアに多数寄稿する。専門はラグジュアリーカー、ヴィンテージカー、スーパースポーツ。自動車の歴史と文化を語りつつ、産業と文明を批評する
トヨタ2000GT:
1969年式 後期型
文化朝活一回目ということで、まずは―
文化とは?
文化と聞いて、何を連想するでしょうか。
・歴史、過去
・教養
・哲学、アート
・生活、営み
・そこにいる人にとっては普通のこと
・一定の領域中で共有している価値観
等々
「京都って文化があるよね」とは、京都の人が長い歴史の中で育んできた当たり前の生活を、よその人が見たときに「特殊」と感じ「文化」的と捉えた。そしてモノとしての形があるのではなく精神的なこと、と定義ができそうです。
本題「日本のクルマ文化の起源」トヨタ2000GTを囲んで
今回プレゼンターとして甚大なご協力をいただきました西川淳さんが選ばれたのがトヨタ2000GT。なんと、群馬に住むカーオーナーさんからお借りいただき、西川さん自身で570kmを自走、前夜の20時半、Kiwakoto本店に7時間かけて到着されました。もう、それだけで拍手喝采です!
2000GTはトヨタ自動車工業とヤマハ発動機が共同開発し、ヤマハ発動機への生産委託で1967年から1970年までトヨタブランドで生産された、スポーツカーです。
“欧州で初めて高く評価された日本のスポーツカー”といわれる個体を、敢えてこの日のために選んでいただきました。
GQ JAPANに、西川淳さんの連載「西川 淳のやってみたいクルマ趣味、究極のチャレンジ」にて、トヨタ2000GTがKiwakoto本店に車で到着するまでのストーリーが語られています!併せてご覧ください。
https://www.gqjapan.jp/cars/article/20200301-toyota-2000gt
文明の利器が作り上げたモノ=クルマ
― なぜ、文化的に感じられるのか
テーマは「日本のクルマ文化の起源」ですが、前述のように文化とはモノではなく、ある領域の中でずっとはぐくまれてきたコト、スタイル。
そもそも最高の工業製品であるクルマを題材に「文化」を語ることはできるのでしょうか。会場に集まった方々も私たちも、なんとなくクルマを文化的と感じています。
理由を問うと、
・人とのつながりを生む
・クルマそのものの芸術性、美しさ
・自己表現をするファッションの一部
おそらく広く一般の方には理解されないクルマの愉しみ方をしている、もしくは提案している、という一種の領域性を発見しました。

そもそもクルマの存在理由に立ち戻ってみると「人と荷物を長距離、且つ、馬よりも速く運ぶこと」「A地点からB地点を効率的に速く行くための道具」です。この原理原則に基づき、日本では精鋭たちの手により圧倒的に優れた工業製品として研ぎ澄まされ、実用性が高く、コスパの良いクルマが生産されています。多くの人がクルマの益を享受できる世の中になり、自動車産業は国の基幹産業として成長しました。
しかしクルマ好きたちは、
どことなく居心地の悪さを感じている―
クルマがライフスタイルの一部である私たちは、文明の利器というよりは、やはり文化として、精神的な充足としてクルマを捉えていて、A地点からB地点に「至る」プロセスを愉しみたい。実用的かどうかという次元からかけ離れたスタイルを愉しみたいと切望しています。
他にもモノを文化的と捉える事例があります。歴史的な建造物、社寺仏閣など古い建築物は、一般的にも文化として捉えることが多いと思われます。これらも建築された当時は、最先端の技術を以てつくられた文明の利器。時間を経て、文化になったと言えます。

文化になり得るために必要な要素は
冒頭「文化から連想する言葉」にも挙げましたが、歴史や長い長い時間の経過が、人が‘それ’を文化的に捉えられるか否かの、要素の一つなのかもしれません。日本車の歴史は戦後70年。固有文化で形のある、例えば社寺仏閣や和装と比較すると圧倒的に新しい存在です。もしかするとクルマを運転しない時代に突入したら現代の‘クルマを運転するスタイル’が文化的になり、乗馬のように高貴な趣味として捉えられるのかもしれません。
そしてもう一つの要素が「オリジナリティ」。ご存知のようにクルマはヨーロッパで生まれ、アメリカで大量生産としてリメイクされ、世界に広がりました。日本は超後発。オリジナリティがないのは仕方がない。ただ、トヨタ2000GTは欧州で高い評価を得ました。当然、様々な理由があり断定はできないと思いますが、伝統工芸と似ているところがあるのでは―。
改めて、トヨタ2000GTのオリジナリティとは
東の果てたる島国に南蛮、インド、中国から多くの文明・技術が伝来し閉鎖的地でガラパゴス的な進化の道を歩み、あたかも日本のDNAに元来あったかのようにこの地の人たちによって咀嚼された結果、
新たな技術・表現を見出し、後世に受け継がれていく「日本(固有)の伝統工芸」になりました。漆芸、織物、陶芸、象嵌や七宝といった金工、全て然り。
トヨタ2000GTは、‘日本にも本格的なスポーツカーが欲しい’と、1960年代に様々なヨーロッパのスポーツカーのいい要素を取り寄せて「模倣車」としてつくられたとされています。きっと、ミックスによって生み出されたプロダクトの完成度が異常に高かったのでしょう。いいところを咀嚼して、自分のものとしてアップデートし表現する日本の『オリジナリティ』の賜物だったと感じます。

そんなトヨタ2000GTも、出た当時は日本で初めて一般発売された最新の本格的スポーツカー。後続車種が続々と出てくる中、最新のスポーツカーはより新しい個体と入れ替わり、忘れ去られ、捨てられていく。発売から20年、30年経ち、ふと‘トヨタ2000GTの存在って大事だよね’と誰かが気付き、改めて価値が見いだされることになります。クルマが、コンピューターや電子制御で実用的なものに突き進んでいくなかで、「古いものって大事だよね」と思う人が現れて、実用から離れた別次元の価値を見出した、と解釈できます。

第一回の文化朝活を終えて
「当時の作り手の思いがプロダクトに表れている。作り手の顔が必ずしも見える必要はないのだけれど、その思いをプロダクトを介して受け取ることができ、腑におちる」個体だったからこそ、日本にトヨタ2000GTがあってよかったと思う人が出てきたのではないかと思う、と最後に西川さんはおっしゃっていました。
人は人の思いに動かされ「伝えたい、残したい」と強く思う。この思いの起点が『文化の起点』と今回のセッションを通じて改めて感じました。私が素晴らしいと思った瞬間が文化の生まれる可能性の『点』です。
今回準備にご協力頂きました皆さま、当日のセッションでたくさんヒントをご提供いただいたご参加者の皆さまへ、大変に感謝いたします。ありがとうございます。
企画主催
Kiwakoto produced by A-STORY Inc.
文
佐藤愛

Contemporary Tea Ceremony~新年茶会
2019年10月よりContemporary Tea Ceremony「今のライフスタイルに沿った茶の湯スタイル」を実践するイベントを度々開催してまいりました。Kiwakoto本店初めての新年を祝い2020年1月19日に催しましたお茶遊びをレポートいたします。
Kiwakotoスタッフと共に、お客様をお出迎えさせていただいたのは、茶人の中山福太朗さん・三窪笑り子さん、狂言役者の由谷晋一さん・河田圭輔さんです。
街なかの店で突然始まる狂言
狂言とは室町時代から受け継がれてきた伝統芸能。とは言え、堅苦しいものではありません。庶民たちの日常生活をコミカルに切り取り、見ているうちに自然と笑みがこぼれるような、面白可笑しいお芝居です。
新作狂言「キワコトハジメ」
ある男がこの頃都で流行っている茶の湯をしようと、キワコトへ向かいます。その道中、辺りの野へ出ると、野点をしている風流人を見つけ、声をかけました。二人は歌を詠み合うと、すっかり意気投合し、酒宴が始まります。「お、お、おおおお~、ちょうどござる」「並々とござる」新年にちなんだ舞や謡を肴に楽しんだ二人は、車に乗ってキワコトの茶の湯に連れ立って行きました。今回の新春茶会に合わせてご披露いたしましたお目出たい演目です。
新作狂言「キワコト十九箱」
新春を寿ぎ、福の神が現れます。見物のお客さまに福を授けにおでましとのこと。お客さまに福を引いていただき、紙に書かれた狂言の演目、舞や謡を披露しました。まさに狂言ジュークボックス。最後はお客さま共々、大笑いをしてお開きになりました。「ハー、ハハハハハ」よく声の響く空間で大笑いした後は、気持ちも晴れやかです。
この時期しか食べることのできない餅
花びら餅の由来は、宮中雑煮にあります。これは、正月の鏡餅に使われていた薄い丸い餅に菱の餅を重ね、白味噌を塗って、干し鮎をのせ包んで食べるものでした。
花びら餅の本家である、「御菱葩(おんひしはなびら)」は裏千家の十一代玄々斎が正月に禁裏(御所)で献茶をした際に、宮中雑煮を持ち帰り、その喜びを分かつため御所に餅を納めていた川端道喜に初釜用の和菓子として製作を依頼したのが始まりです。茶室では生臭物は嫌われるため、ゴボウは鮎の代わりに入れられています。
皆さんと新年の喜びを分かつ、ぷっくりした餅は、福が詰まっているが如し。
移動の先に待ち受ける静寂の空間
Craft-carに乗り込み、暫し晴れやかな移動を楽しんだ後にたどり着くのは和蝋燭の灯る常扇庵。先ほどまでの、高揚感が一気に静まり、一種の瞑想的な時間が始まります。ここから先は、体験した方しか味わえない未知の時間。酔いも一気に覚める濃茶をいただき、日常への帰路へ。
また次回もご期待ください!
企画主催
Kiwakoto produced by A-STORY Inc.
パートナーのみなさん
中山福太朗
1986年生まれ。2013年、陶々舎の立ち上げに参加。鴨川でお茶を振る舞う「鴨茶」、無印良品でのワークショップ「当世日本茶湯見聞記」など、今に接続する茶の湯を様々な形で具体する活動を続けている。
三窪 笑り子
1992年堺生まれ。裏千家学園茶道専門学校を卒業。さかい利晶の杜の立ち上げに参加。2017年より陶々舎に拠点を置く。現在は茶道教室の運営、「常笑釜」を主宰する他、国内外で茶と人を結ぶ会を行う。
由谷晋一
2005年、京都大学入学と同時に、同狂言会に入会し、大蔵流狂言師木村正雄、網谷正美に師事。体験授業やワークショップを通して、沢山の方々を狂言の世界に誘う活動をライフワークにしている。茶の湯、絵画、現代演劇、スタンダップコメディなど、様々な分野とのコラボにも積極的に取り組む。
河田圭輔
1980年生。1999年より京大狂言会に入会、大蔵流狂言師木村正雄・網谷正美の下で狂言を学ぶ。卒業後は、体験授業やワークショップといった普及活動にも取り組み、「サラリーマン狂言」や「SDGs狂言」の創作など、狂言の笑いを現代に広げる活動にも力を入れている。
会場協力
常扇庵